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CFOメッセージ
財務面から「LSV 2030」を推進し、企業価値向上を目指します
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取締役常務執行役員
管理本部長 - 柴野 洋一
2024年9月
2024年3月期の振り返りと「LSV 2030-Stage 2」の経営目標
「LSV 2030-Stage 1」の最終年度となった2024年3月期の上期は、電子・光学関連製品の販売数量の大幅な減少や、受注減少による生産設備の稼働率低下に伴う操業損失の増加など厳しい事業環境となりました。下期以降には半導体・電子部品関連製品やシール・ラベル用粘着製品を中心とした受注の回復のほか、価格改定などの効果が表れて事業環境が好転したものの、上期の不振をカバーするまでには至らず、通期の連結売上高は2,763億円、営業利益は106億円、親会社株主に帰属する当期純利益は52億円と減収減益となりました。
「LSV 2030-Stage 1」では、初年度に売上高・利益ともに過去最高を記録し目標を上方修正しましたが、2・3年目は外部環境の悪化によるマイナス影響が大きく、目標を達成できませんでした。想定以上に原燃料価格の高騰や円安など外部環境に大きく影響を受けた3年間だったと言えます。
当社が今後も新製品・新事業の創出などを通じてサステナブルな社会の実現に貢献していくためには、外部環境に影響されない強靭な企業体質であることが不可欠です。収益性・資産効率の改善、戦略的な資本配分、そして適切な情報開示や株主・投資家と建設的な対話をしていくことが、「LSV 2030」を推進していく中でCFOとしての私の責務だと考えています。新中期経営計画「LSV 2030-Stage 2」ではこれらを着実に実行し、最終年度の2027年3月期は連結売上高3,150億円、営業利益255億円、親会社株主に帰属する当期純利益180億円、売上高営業利益率8%以上、ROE(自己資本当期純利益率)8%以上の達成を目指します。初年度となる2025年3月期は、引き続き不透明な外部環境が続くことが予想されますが、販売数量の回復や生成AI向け半導体関連装置の大口受注などにより、売上高は2,900億円、営業利益は180億円、親会社株主に帰属する当期純利益は130億円と増収増益となる見通しです。
収益性・資本効率の改善
2024年3月期はカナダのシール・ラベル用粘着製品の販売会社であるラベルサプライ社の事業を買収した一方で、光学関連製品の製造・販売を行っているリンテック・スペシャリティー・フィルムズ(韓国)社とリンテック・スペシャリティー・フィルムズ(台湾)社の解散を決断しました。偏光フィルム事業においては、昨今の中国企業の台頭などにより、両拠点での業績の回復が見込めないと判断したためです。一部の株主・投資家からは、事業ポートフォリオの最適化の観点で低収益事業の縮小や撤退を含めた厳しいご意見を頂くこともあります。しかし、粘着製品の一貫生産や事業部門間での技術転用・応用を可能とする3セグメント6事業部門体制が当社の強みであり、既存事業の収益改善が最優先課題だと考えています。当社グループでは、収益の改善に向けて、コスト削減や生産性の向上、価格改定などを進めてきました。逆風の中でもやるべきことを実行してきた結果、着実に成果が出始めています。今後も、徹底的な改善を継続したうえで、事業ポートフォリオの最適化を目指していく方針です。
また、2024年3月期は事業部門別のバランスシートを半期ごとに作成・分析した結果、固定資産や棚卸資産などの回転率に関する課題が浮き彫りになりました。各事業部門長と協議のうえで事業部門ごとのKPIを設定し、今後は本格的な実行フェーズに入っていきます。社員も自身の仕事と財務指標との相関性について関心を高めつつあり、これまで以上に生産本部や調達本部とも連携を図りながら、全社一丸となって採算性や収益改善に取り組んでいきます。
なお、コスト競争力向上の面でDXの活用は欠かせません。私はDX推進の組織横断プロジェクト「LDX 2030」の統括責任者としても、DXによるビジネスモデルの変革を推進しています。同プロジェクトは、ありたい姿と変革テーマから導き出した業務改革や営業などのテーマごとに6分科会体制で構築され、現在2027年3月期までのロードマップを策定して施策を進めています。
持続的成長に向けたキャッシュアロケーション
「LSV 2030-Stage 2」期間では約1,300億円のキャッシュフローを見込んでおり、その使途は研究開発、生産設備、人材、DX、M&Aといった成長投資と株主還元の充実を主な対象としています。必要な投資については戦略的に資金を投入し、企業価値を向上していく考えです。
設備投資には約600億円を割り当てる計画で、需要が伸びている積層セラミックコンデンサ関連テープや半導体関連粘着テープの塗工設備の増設、小松島工場(徳島県)での新たな工場棟の新設、生産効率を向上させるためのスマートファクトリー化などを進めていきます。環境変化が激しい昨今、いかに先手を打つ形で投資できるかが鍵となります。前中期経営計画からの継続となりますが、生成AI関連や半導体関連などの需要増加に対応できる体制を早急に整えます。
研究開発には約320億円を投資する計画です。新製品・新事業の早期創出を目指すほか、次世代半導体の微細回路形成に欠かせないEUV露光機用CNTペリクルの早期量産体制構築に向けた投資を主としています。研究開発の中には芽が出るまでに時間が掛かるものもありますが、マーケティングデータなども活用しながら投資すべき分野を見極めます。そのほかM&Aについても財務リスクを加味したうえで検討していく考えです。
また株主還元に関しては、2027年3月期までは原則として減配せず、配当性向40%以上またはDOE(株主資本配当率)3%をめどに配当を実施します。引き続き、経営基盤の強化を図りつつ、各事業年度の連結業績を勘案し、安定的かつ継続的な配当を行っていくことを基本方針として、さらなる株主還元の充実を目指します。自己株式の取得についても手元資金を考慮のうえ、適宜必要性を判断し、機動的に実施していきます。
株主・投資家との建設的な対話
株主・投資家の皆様との対話は、当社にとっても学びや気づきを得る重要な機会となっています。アドバンストマテリアルズ事業部門などを中心に当社へのご期待の声を頂く一方、PBR(株価純資産倍率)が1倍を下回る状態が続いていることを真摯に受け止めています。当社のWACC(加重平均資本コスト)は5.3%前後と認識していますが、今後これを上回るROEを安定して創出していかなければならないと強く感じています。前述の諸施策に実直に取り組むことでROEを向上させるとともに、当社の経営や取り組みをご理解いただけるよう積極的な情報開示と対話を進めることで、企業価値の向上と市場評価の改善に努めていきます。