半導体の製造に欠かせない“テープ”を究める。

半導体の製造に欠かせない“テープ”を究める。

PROFILE

長谷川 裕也(はせがわ ゆうや)
信州大学大学院 理工学系研究科卒。2014年、リンテックに入社。電子材料研究室に所属し、入社以来、一貫してウェハ表面保護テープの開発に携わる。クールな見た目とは裏腹に、飽くなき挑戦心を持つ研究所の若きエース。

膨大な情報を記憶したり、複雑な演算処理をしたりするなど高度な機能を持つ半導体チップ。スマートフォンやパソコンに数多く搭載され、電子機器の頭脳として大きな役割を果たしている。その製造・実装工程に欠かせないのがリンテックの半導体関連テープ「Adwill(アドウィル)」だ。リンテックは1986年に半導体関連事業に本格参入を果たし、時代や社会のニーズに応えるテープを生みだしてきた。そして、今もなお進化を続けている。最先端技術が集約されたテープとは、一体どんなモノなのか。研究員の長谷川裕也に尋ねた。

Chapter 01

半導体チップの小型化・薄型化に貢献するテープ

より高品質なテープを生みだすために日々、研究を積み重ねる。
テープでスマートフォンの進化を支える

スマートフォンやパソコンなどの頭脳ともいえる半導体チップ。その製造工程は、円柱状のシリコンを薄くスライスした円盤状の半導体ウェハの表面に電子回路を形成した後、裏面を研削してさらに薄くし、それをチップ状に個片化するという流れだ。リンテックの半導体関連テープ「Adwill」は、後工程と呼ばれる回路形成後の工程で重要な役割を担っている。

リンテックの特殊粘着テープは、半導体製造工程のさまざまな場面で使用されている。その中でも長谷川が開発に携わるウェハ表面保護テープは、近年シェアを伸ばしている製品だ。「半導体チップを製造するために、まずシリコンと呼ばれる高純度金属をスライスするのですが、それだけではまだ厚いので、裏面を削ってさらに薄くするんです。その際に、表面の回路面が汚れたり、割れたりしないように保護するのが、このウェハ表面保護テープです」。

試作、評価、検証を繰り返し、精度をさらに高める

ウェハの薄型化が一層進む中で、テープにもより高い品質と性能が求められる。「ウェハ表面保護テープは、ウェハを切断して個片化する前に剥がされてしまうため、貼るときはきれいに貼れて、回路面を水や削りくずからしっかりと守り、剥がすときは粘着剤の“のり残り”がないようにしなければなりません。そのために日々サンプルをつくり、評価と検証を繰り返しています」。

研究開発には幾つもの壁が立ちはだかる。そんなとき、長谷川はどのように解決しているのだろうか。「一人で黙々と作業することもあるのですが、疑問が浮かんだときはチームのみんなに意見を聞きます。よくよく調べると同じような現象が過去にもあって、そのときの仲間の経験が問題の解決につながることも少なくありません。自分の経験だけに頼らず、常に周りとコミュニケーションを取るようにしています」。社内の仲間だけでなく、社外の方々からも積極的に情報を収集し、知見を広げているという長谷川。現在は、既存のテープの改良と並行して最先端テープの開発にも取り組んでいる。

ウェハ表面保護テープ仕様プロセス

続きを読む

Chapter 02

経験がないからこそ熱くなれる

現状に満足することなく、未来を見据えて挑み続ける。
極薄化を実現する最先端テープの開発

現在、長谷川はSDBG(Stealth Dicing Before Grinding)と呼ばれる最先端の半導体製造プロセスに対応したテープの研究に携わっている。SDBGとは、保護テープを貼ったウェハ内部にレーザーで切り込みを入れ、裏面を削って薄くすることで個片化するというものだ。「ブレード(刃)でウェハを切断する一般的な工程に比べてチップへのダメージが少なく、チップ一つ一つの強度と精度を高めることができます。さらに、切断くずの発生を減らすこともでき、切断幅が狭くなるためウェハ1枚から製造できるチップの個数が増えるというメリットもあります」。

紙のような薄さまで削ったウェハに対して刃を入れると、チップの欠けなどが発生しやすくなってしまう。SDBGであれば、ウェハにレーザーで切り込みを入れてから削るため欠けたり割れたりしにくく、より高品質かつ薄いチップを製造することができる。「SDBGプロセスに対応するテープには、切り込みが入ったウェハを薄く削る際にチップが欠けたり剥がれ落ちたりしないことや、ウェハからのり残りなくきれいに剥がせることが求められます」。最先端の半導体製造プロセスに対応したこのテープは、次世代薄型チップの製造に欠かせないものになるだろう。

厚みにバラつきのないテープを求めて

今までに経験したことのない分野だからこそ挑戦したい。長谷川は、SDBG用テープの開発に携わった経緯をこう語る。「私が所属する研究室は複数のチームに分かれて製品を開発しているのですが、ある二つのテープのうち『どっちがやりたい?』と聞かれたんです。一つは以前開発に携わったことがあったので、経験したことのないSDBG用テープの方が面白いかなと」。経験を生かすだけではなく、経験を広げたい。チャレンジ精神あふれる長谷川らしい選択理由だ。

現在の開発課題は、テープの粘着剤層の厚み精度をどれだけ高められるかだという。厚みのバラつきが大きいと、製造されるチップの品質低下につながってしまう。「半導体製品は日々進歩しています。今、OKが出ているモノが数年後にはダメになる可能性もある。だからこそ、次世代を見据えて、厚みの精度を極限まで高めなければなりません。粘着剤の設計だけなら研究所だけで考えられますが、工場でどのように塗工するかなど、テープ全体をどのようにしてつくり上げるかまで考える必要があります」。

SDBGテープ仕様プロセス

続きを読む

Chapter 03

生活がより便利に、より豊かになる技術を

「これしかない!」と思える一枚がお客様に喜んでもらえたときは嬉しかった。
ライバルは「時間」

長谷川の仕事は新規テープの開発だけではない。お客様とコミュニケーションを取り、要望に合わせた製品を短期間で納品しなければならない場面もある。そんな長谷川のライバルは時間だという。「どれだけいいモノをつくっても、納期に間に合わなければ意味がありません。だからといって、中途半端なモノは提供できない。限られた時間でどうやってクオリティーを高められるか、常にスピードを意識してプロジェクトを進めるようにしています」。

“未来”を見据えながらも、“日々”の業務に一切の妥協を許さない。そんな長谷川に、研究員としての醍醐味を聞いてみた。「やはり、思い描いたとおりのテープができたときでしょうか。何度も試作品をつくり、次でダメなら一からつくり直さなければならないという局面があったんです。そのときに、これしかない!と思えるモノが完成し、それがお客様の要求性能にマッチして喜んでもらえたときは、本当に嬉しかったですね」。研究開発はシビアだ。常にお客様から評価され、ニーズにしっかりと応えることが求められる。だからこそ、長谷川が語ったこの成功体験は、自身の成長に大きくプラスになったはずだ。

海外で経験を積み、半導体の進化に貢献したい

大学では生物系の研究をしていた長谷川。リンテックに入社した理由は、粘着技術に強い興味を持ったからだという。「学生時代に参加した会社説明会で、リンテックの製品が実は身近なところでたくさん使われていると聞いて、粘着技術の可能性に魅力を感じました。現在開発しているのは工程の中で剥がしてしまうテープなので、最終製品には残らないのですが、スマートフォンやタブレットは、このテープがなければ成り立たない。自分がつくったようなものだ!というくらいの誇りを持って仕事をしています」。

所属する研究室から海外赴任して活躍する社員も少なくない。もともと日本で研究を続けたいという思いがあった長谷川だが、海外出張を経験してその考えが変わったという。「海外は水も飲めないし、人も怖そう…というイメージがあったのですが、行ってみたら意外と楽しそうだなと。現地のお客様の意見もとても刺激になりますし、一度は海外で経験を積んでみたいと思うようになりました」。

最後に長谷川の夢について聞いてみた。「電子機器は今や生活必需品です。それらに欠かせないテープを開発しているので、さらに性能を向上させることはもちろん、困っている人の手助けになるような今までにない製品の開発にも携わりたいですね」。そんな熱い意志を持って研究開発に励む長谷川。その一日一日は、着実に夢の実現へとつながっている。

続きを読む

トップへ