モバイルディスプレイの鮮明化へ! “両面粘着シート”を開発。

モバイルディスプレイの鮮明化へ! “両面粘着シート”を開発。

PROFILE

那須 健司(なす けんじ)
熊本大学大学院自然科学研究科卒。2006年、リンテックに入社。剥離材料研究室で“剥がす技術”を磨いた後、粘着材料研究室へ転属。モバイル関連製品を中心に開発を行うチームに所属している。度量は大きく、作業は繊細が持ち味。研究所のスーパーモバイルマン。

タッチパネルを搭載したスマートフォンやタブレットなどの画面表示は非常に鮮明である。だが、それはまだ進化の途中だという…。さらなるモバイルディスプレイの視認性向上を目指し、その実現に不可欠な両面粘着シートの開発に取り組んでいる、粘着材料研究室の那須健司に尋ねた。

Chapter 01

モバイルの進化とともに進化する「両面粘着シート」

モバイルディスプレイの内部には常に新しい性能が求められる。
モバイル関連部材用両面粘着シートとは?

御存知だろうか? モバイルディスプレイは、何枚ものフィルムやガラス、プラスチックで構成されている。特にタッチパネルを搭載したディスプレイは、これまで以上に多くのフィルムやガラスが積層されているのだ。那須が開発しているのは、それらを貼り合わせる「モバイル関連部材用両面粘着シート」である。高透明で、最適な粘着力を持つこのシートが、寸分の狂いなく異素材同士をぴったり貼り合わせることで、ディスプレイはより鮮明に画像や文字を表示することができる。

「モバイルディスプレイにはどんどん新しい機能が付加されています。最近では防水機能が標準装備された携帯電話が多く、当然ディスプレイを構成する粘着シートにもその性能が求められます」。那須は現在、組織を横断した、モバイル関連製品の開発に特化したチームに所属し、日々研究に明け暮れている。

「よくつく」だけではいけない

両面粘着シートといっても、一般に使用される両面テープとは異なり、より高度な粘着剤の設計が求められるのが、モバイル関連部材用の両面粘着シートだ。実にさまざまな課題があり、それらをクリアするためには精緻な技術が欠かせない。その課題とは、例えばこうだ。画面の傷つき防止のため両面にハードコート(耐擦過コート)加工を施したディスプレイ用フィルムには、一般的に粘着剤がつきにくい。このハードコート層には、剥離フィルムなどに使われるシリコーンが含まれていることが多いからだ。単純に粘着力を高めればよいと思われるだろうが、そうもいかない。粘着力を高めるためによく使われる添加剤を加えると、今度は色がついてしまうためだ。これでは、ディスプレイの視認性を妨げてしまう。そのため、粘着剤を組成面から見直すことで、新たな粘着剤を開発し、それをシート化していくことが求められる。

またタッチパネルには、画面に触れた位置を電気的に感知する役割を持つ透明導電層がある。この層には通常、金属が使われており、一般的な粘着剤を使用すると腐食する恐れがある。そのため、金属を腐食させない粘着剤の設計が必要になる。さらに、プラスチックからのアウトガスによる浮きや膨れを抑制することや、高温・高湿環境下でも長期間、安定して透明性を維持できることなど、要求性能に応じた粘着シートの開発が求められる。ガラスや透明導電層、プラスチックなどさまざまな材料が積層されてできているタッチパネルには、貼るものの材質に応じて異なる特性を持った粘着シートが用いられる。ただ貼ることだけを考えればいいわけではないのである。

タッチパネルの構成と当社の両面粘着シート

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Chapter 02

粘着剤の「軟らかさ」と「厚み」が進化の鍵を握る

お客様の生の声を聞くことで、開発スピードを上げる。
貼られるものの形にピッタリと合う粘着剤の開発

モバイルディスプレイ用の粘着剤に求められるのは、貼られるものの材質に適合することだけではない。那須が取り組んだテーマ、それは、貼られるものの形状に合う粘着剤の開発である。

一般的に粘着シートには、曲面やざらざらな面への追従性など、貼られるものの形状に合った粘着剤の設計が必要とされる。しかし、モバイル関連部材用の両面粘着シートに要求される性能は桁違い。ディスプレイの黒枠印刷部分、その塗装剤が塗られたわずかな凹凸さえも、クリアすべき大きな課題となるのだ。印刷部分の段差に気泡が入らずに、ピッタリと密着する粘着シート。気泡の残留を防ぐために、那須は粘着剤の軟らかさや厚みに工夫を重ねた。その結果、段差へ追従するような粘着剤の開発に成功したのである。

たとえ海外でも、対話を求めて出向く

那須はクライアントとの対話を好む。「営業がお客様の所に行く際には、なるべく同行するようにしています。生の声を聞くことで、相手の要求がより具体的に理解できるし、先方の設計担当者の方に会えれば、そこで技術的な話に発展させることができる。そうすることで開発スピードも格段に早まります。それに十分に納得してから開発に取り組めますしね」。

モバイル関連製品は、中国や台湾など海外のクライアントからの依頼が多い。那須は台湾にも直接打ち合わせに出向いた。「海外のお客様の場合、特にハードスケジュールになることが多いんです(笑)。だからもう、開発のスタート段階で直接会って話すことって、これからどんどん大事になってくると思いますね」。進化を続けるリンテックのモバイル関連製品。その進化の裏には、那須をはじめとするプロジェクトメンバーのこうした努力があるのだ。

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Chapter 03

リンテックだからできる社会貢献のカタチ

素材を開発することで、世の中を良くすることに貢献したい。
「川上での開発」と「人間関係」に魅せられて

那須はなぜリンテックに入社したのだろうか。その理由を聞いた。「研究職に携わりたい。できれば、川上の素材面から工夫ができるところでやりたいと思っていた。なぜなら、素材づくりは、川下で実に多くのことに役立つことができるから。そこで選んだのがリンテックなんです」。

「あとは、研究職とはいっても人間関係が大事だと思いました。コミュニケーションの不足した職場では、絶対にいい研究はできないですからね。リンテックは、研究員同士の仲の良さ、チームワークの良さを会社訪問のときから感じられました。入社後も実際にそうでしたしね」。開発は一人じゃできない、と言い切る那須らしい視点だ。

開発は続く、どこまでも

世の中を良くする素材を生み出す夢のつなぎ手として、那須はこれからをどう描いているのだろうか。「僕らが開発している素材製品は、最終消費者の手に渡る製品に組み込まれ、そのごく一部を構成するにすぎません。でもそれがないと最終製品自体の進化は成立しない。だから、これから出てくるであろう未来の当社製品についても、絶対に欠かせないと言えるようなものであってほしい。その開発に直接携わることで、世の中を良くすることに貢献できればいいなと思っています」。

「モバイルディスプレイに関していえば、人はどんどんいいものを求める。だから、進化に終わりはないと思う。ディスプレイを、もっともっと鮮明に、もっともっと高機能にしていきたいと思いますね」。那須はとにかく明るい。その彼の資質と努力が、未来のモバイルディスプレイを変えていくかもしれない。

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