“製造プロセス技術”の深化で、シート開発を加速させる。

“製造プロセス技術”の深化で、シート開発を加速させる。

PROFILE

森 剛志(もり たけし)
神戸大学自然科学研究科卒。2004年、リンテック入社。入社当初から乾燥工程の研究に携わり、プロセス開発室に勤務。関西育ちの好奇心旺盛な気質で、誰とでも話ができる研究所のコミュニケーションマン。

シール・ラベルから工業用の特殊機能性フィルムまで、リンテック製品の製造プロセスには、混ぜる、塗る、乾かすなど、数多くの単位操作技術が介在する。その一つ一つを追究し、最終製品の物性をコントロールしていくのが、プロセス開発室の仕事だ。今回はこの部署で、塗工液の「乾燥工程」の研究に携わる森剛志に、製品開発との関わりについて尋ねた。

Chapter 01

粘着製品の製造プロセスに欠かせない塗工液の「乾燥」を追究

プロセス開発室は、非常に幅広い知識を求められる。
プロセス開発室の仕事とは

森が籍を置くプロセス開発室。その研究内容は、一般的には想像がつきにくいかもしれない。紙やフィルムに塗る塗工液の原材料を「混ぜ合わせる」、その塗工液を「塗る」、「乾かす」、あるいはベースの紙やフィルムをロールから「繰り出す」、再びロールに「巻き取る」などといった、それぞれの単位操作技術の研究開発がその仕事だ。シールやラベル、あるいは特殊な機能性フィルムなど、リンテック社内のさまざまな製品開発部署における開発過程で、トラブルが発生したときに必ず声が掛かる、研究所の「相談窓口」のような役割を担う。それぞれの工程に関わる技術のスペシャリストが問題を見極め、解決方法を提案していく。そのかいあって、各種製品の品質の確立と量産化が実現するのだ。

プロセス開発室で森は、乾燥工程の研究を行っている。紙やフィルムに塗った粘着剤や表面コート剤などの塗工液を、熱風で乾かし、定着させる乾燥工程のスピードは、最終的な製品の生産効率を大きく左右する。しかし、熱風の温度や風速を上げれば、それだけ塗工層表面の品質を低下させる危険も大きくなる。「一言で乾燥工程の研究と言っても、各製品の材料設計や機械設備についての知識もないと理解できません。プロセス開発室は、研究所内でも非常に幅広い知識を求められる部署の一つだと思います」。

特に繊細な乾燥が求められる光学機能性フィルム

粘着製品の製造ラインで使われる乾燥設備(ドライヤー)は、2m幅くらいのボックスになっており、その中には何本ものノズルがついている。そこから熱風が出て、ボックス内を流れるシート表面に風が当たる。その風の温度、速さ、向き、あるいは塗工液を塗った紙やフィルムの流れるスピードなど、製品ごとに最適な乾燥条件を構築するために考慮すべき点は非常に多い。

森が以前担当したのは、液晶ディスプレイの構成部材となる光学機能性フィルム。その表面ハードコートフィルムには、非常に繊細な乾燥が求められる。高い透明性や光の映り込み防止など、さまざまな光学物性に応じた塗工液が多数あり、それぞれに対して最適な乾燥条件が存在する。森はこの製品に合った、安定した乾燥条件を探索するため、日夜研究所で乾燥設備と向き合った。

シート材料の製造工程

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Chapter 02

最終製品の物性を乾燥プロセスでコントロール

乾燥工程の視点から材料選定の提案ができる。
地道な開発努力で、製品の安定品質を実現

森は光学機能性フィルムの品質の確立に向け動き出した。熱風の温度、風速はもちろん、風を当てられるフィルム表面への熱の伝わり方まで検証を行った。熱風の当て方をどう工夫すれば、フィルム表面がより効率良く均一に熱を受けやすくなり、同時に塗工液の均一性もダメージを受けなくなるのか、ということである。研究を繰り返すうちに森は一つの糸口を見つける。同じ温度の熱風でも、風の当て方によってフィルム表面が受ける熱効率が異なることが分かったのだ。「風の当て方を細かく変えられるような実験機を使い、伝熱量の数値化を試みました」。

実験機での成果を基に、量産設備を使って検証を行ってみると、そのスケールの違いから、研究所ではなかった新たな問題も生じる。それらの不具合に対して、研究所に戻りグループ内でディスカッションを行い、検証を繰り返す。森は、スケールアップの難しさと向き合っていた。「製品開発を行う研究員の場合、工場の量産設備で不具合が生じた際には材料の物性から解決を試みることが多いのですが、私たちは各製造工程の視点からアプローチしていきます」。こうした作業を繰り返し、森は高品質な光学機能性フィルムの量産化を実現する最適な乾燥条件を見いだした。

製造プロセス技術の視点から、材料選定の提案へ

森は、シート上における塗工液の乾燥プロセスをシミュレーションする試みも進めている。肉眼では見ることのできない、ボックス内での乾燥プロセスを「見える化」することに取り組んでいるのだ。乾燥の際の蒸発量をきめ細かく調べてデータベース化し、シミュレーションができるシステムの確立を目指す。「材料設計を担う研究員にとって、乾燥に適した材料の見当がまったくつかない中でやみくもに実験を繰り返すより、ある程度データがある中から実験をしていくほうが圧倒的に効率的です。乾燥工程の視点から材料選定の提案ができるというのも大きなメリットなんです」と森は言う。

今後、プロセス開発室はどう進化していくのかという質問に、森はこう答えた。「個々の単位操作技術の視点からの材料選定に関する提案だけでなく、製造プロセス全体の流れの中で、最適な材料設計を提案するようなスタイルを目指していくことになるでしょう」。今は乾燥工程の分野に特化している森が、いつしかプロセス全体に関わる研究に携わる日も近い。

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Chapter 03

「プロセス開発」という仕事への誇り、そしてその大きな可能性

製品の数だけ、プロセス開発という懸け橋がいる。
大学時代とはまったく違う視点での研究

もともと大学時代に高分子材料の乾燥プロセスに関わる研究をしていた彼は、ある学会で研究発表を行った際、その場に居合わせた元の上司に当たる人の目に留まったことが、入社のきっかけになった。「大学でやっていた研究内容がそのまま会社で役に立つというのは、自分にとって良かったことだと思います。でも実際に働いてみると、大学と会社とでは、研究のスタイルは全然異なるものでした」。森が会社に入って一番難しいと感じたのは、大学での研究との視点の違い。大学では、決められた研究対象についての知識をより深く掘り下げていけば良かった。しかし、会社では限られた知識だけでは到底、対応できない。

「会社で求められる研究開発というのは、しっかりと製品化に結びつけていくことです。そのためには、リンテックが開発・供給している製品の材料設計に関する知見、あるいは実際に製品をつくる機械設備に関する知見がないとダメなんです。全体を見る視点というのが非常に大切になってきます。昼食や休憩中の、他部署の研究員とのコミュニケーションも大事です。とにかくいろいろな方面にアンテナを張り巡らしています。もちろんそれだけ苦労も多いですよ(笑)」。

製造プロセスへのアプローチから、新しい製品を生み出したい

そんな森が未来の“夢をつなぐ技術”として挙げたのが、製造プロセスの環境条件だけで最終製品の物性を任意にコントロールできる技術。一般的には材料選定、添加剤配合などを通じて製品性能は決定づけられるが、これだと要求性能の数だけ材料のラインアップが必要だし、設計も製造管理も大変。もしも材料設計を変えることなく、例えば乾燥工程の環境条件設定だけで、さまざまな物性を持った最終製品を自在につくることができたら…。「他社にはまねのできない製造技術で、他社にはまねのできない製品をつくり出す。夢でなく、現実のものにしたい」と森は言う。

「プロセス開発室に求められるのは、全ての製品開発に必要不可欠な、材料設計と量産化の間をつなぐいわば“架け橋”の役割。リンテックの社内には、開発を手掛ける製品の数だけ夢がある。そしてその夢の数だけ、必要とされる“橋”がある。この橋をつくっていくのが、私たちの仕事だと思っています」。森が架ける橋が、これからもリンテックの製品と皆さんをつないでいく。

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