もともと大学院時代の研究課題はナノ粒子の研究。今とは違うテーマに取り組んでいた高橋が、粘着素材に興味を持ち始めたのは就職活動中だった。彼はある化学メーカーでインターンシップに参加した際、初めて粘着技術に出会う。そこからその可能性に引かれ、就職活動の最終段階で、これまで学んだナノ粒子の知識を生かせる会社を辞退し、粘着関連の研究ができるリンテックに入社する。その決断をさらに後押ししたのは、リンテックの社風だったという。
「入社前のイメージと変わらず、会社の雰囲気はいつもアットホーム。社員同士の仲も良く、プライベートでも遊んだりします。出張で工場に行ったときには、現場の人と飲みに行き、終電を乗り損ねて、結局その人の家に泊めてもらったこともありました(笑)。そうやって育んだ人間関係で、ずいぶん仕事もやりやすくなってます」。
どんな仕事をやるにしても、一番大切なのは人と人とのつながり。これが高橋のモットー。特に剥離材の研究はいろいろな分野の人と関わる仕事なので、円滑な人間関係は仕事をするうえでとても重要とされる。そのため、誰とでも楽しくコミュニケーションを取ることができるという高橋のキャラクターが、仕事の効率アップや豊かな発想を生み出すのに重要なファクターになっているのかもしれない。
「剥離技術にどんな可能性があるかは未知数」と高橋は言う。確かに剥離技術は一般ユーザーになじみも薄く、マーケットも確立されているとは言い難い。しかし、それは同時に新分野を確立するチャンスとも言える。「剥離材というのは、クライアントからどういうものが求められているか分かりづらいんです。だから、自分たちから積極的に『こういうことができますよ』と提案していかなくてはいけないと思います」。
「将来的には企業向けの剥離材だけでなく、一般消費者に向けて、剥離技術を生かした製品をつくり出していければ面白いですね」。クライアントや営業スタッフからの難しい注文にも、どう乗り越え、製品というカタチにしていくかにやりがいを感じるという彼らしい発言だ。
これから、どんな夢をつなぎたいですか?という質問に高橋はこう答えた。「剥離力が自由に制御できる剥離材をつくりたい。どんな粘着剤に対しても、きちんとくっついていて、かつきれいに剥がしやすいもの。そうすれば、シールやラベルだけでなく、さまざまな用途で社会に役立てる可能性が広がると思う」。
インタビューの最後、将来の夢について尋ねると高橋は確かなまなざしでこう言った。「剥離技術のエキスパートですね」。その言葉にはモノづくりを究める技術者としての誇りと情熱があった。