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平野 レミ (ひらの れみ)料理愛好家・シャンソン歌手。主婦として家庭料理を作り続けた経験を生かし、「料理愛好家」として活躍。 “シェフ料理”ではなく、“シュフ料理”をモットーに、テレビ、雑誌などを通じて数々のアイデア料理を発信。 また、講演会、エッセイを通じて、明るく元気なライフスタイルを提案するほか、特産物を使った料理で全国の町おこしなどにも参加し、好評を得る。レミパンやジップロンなどのキッチングッズの開発も行う。第9回 料理レシピ本大賞のエッセイ賞を受賞。 近著の「平野レミのオールスターレシピ」をはじめ著書は50冊以上。初のマンガレシピ本「平野レミのマンガでわかる料理教室」 も好評発売中。7料理の算数は、その5種類を加熱して「美味しく作ろう」という気持ちを加えれば、美味しさが10にも100にも膨らんでいく。それがキッカケでどんどん料理すること、食べることが好きになっていった。若い時、豚の角煮で目からウロコの出来事があった。中国料理店で角煮を注文した。しばらくして5㎝角ほどの角煮が並んで出てきた。箸でさわったらフニャッと切れてしまう。震えるほど軟らかくて肉には味がしっかり入っている。もうこれはマネしようと決心。翌日、豚肉の塊を買ってきて調理開始。鍋に葱、生姜、水を入れ、豚を入れる。途中で調味料を入れ、更に火を通す。しかし豚は一向に軟らかくならない。くやしくて何度も自転車こいで肉屋へ。でもいくらトライしても依然として肉は硬いまま。何日かかったか、いろいろ試して今度は調味料を入れずに肉だけをコトコト煮てから次に調味料を加えることにした。なんと味がス〜ッと入っていくではないか。ワ〜イ!!大成功。肉は軟らかくなり味もしっかり入っている。ここで煮物と男女関係は一緒なんだとハタと気づいた。好きでもない人に好き好き言われると気持ちが固くなるけど、気持ちが柔らか〜くなったところで言われたら、ス〜ッと受け入れられる。それと同じだと。受け入れ態勢が万全なら味は入るもの、と納得した。つまり、繊維を壊さなくては調味料は入らない事を知った。若い頃、豚ではなく牛で忘れられない出来事がある。友だちの家に呼ばれて、仲間とお昼ご飯をごちそうになった。「牛丼作るからお腹すかせて来てね」の言葉に喜び勇んで行った。九谷焼の骨董品らしいフタつき絵つきの丼が出てきた。期待が膨らむ。召し上がれの声でいっせいにフタを開けた。あらっ!!大変!!どんぶりの底の底に牛肉がいた。みんなで顔を見合わせてしまった。まるでおつまみのようだ。この時以来、盛り付けの大切さを実感した。あれは上品な盛り付けだったのか、それとも高い牛肉をケチッたのか。あの時以来、上品とケチは紙一重なんだ、気をつけなくちゃ、と肝に命じている。

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