WAVE89
11/20

時の移り変わりと共に変化していく「季語」は時代を映す鏡のようなものであり、今後は例えば気候変動に関する新しい季語が誕生するのでは、と語る夏井さん。リンテックも将来を見据えながらリスクや機会を分析し、現在そして未来の社会的課題の解決に貢献するための経営を推進していきます。夏井 いつき (なつい いつき)俳人。1957年生まれ、愛媛県出身、松山市在住。俳句集団「いつき組」組長、藍生俳句会会員。第8回俳壇賞、第72回日本放送協会放送文化賞、第4回種田山頭火賞受賞。俳句甲子園の創設にも携わる。帝塚山学院大学客員教授。松山市公式俳句サイト「俳句ポスト365」選者。2015年より初代俳都松山大使。句集『伊月集 鶴』(朝日出版社)、『夏井いつきの「今日から一句」』(第三文明社)、『瓢簞から人生』(小学館)など著書多数。11そういえば、「餅代」という言葉があったなと思い出す。お正月の準備として暮れに餅をつ搗く。そのための代金として、雇い主が少額を包んでくれたものだ。各家庭で親族郎党、皆で集まり賑やかに餅を搗く風習は廃れた。餅はスーパーで買うもの。そうなれば「餅代」という心遣いも廃れていく。「越冬資金」という切実で生々しい言葉は、事務用語っぽい「年末賞与」という呼び名に変わり、さらに「ボーナス」という外来語のほうが洒落てるなと流行りだす。経済復興と繁栄の昭和らしい選択であったに違いない。季語は時代と共に変遷していく、時代を映す鏡なのだ。何もかもが物凄いスピードで変化していく現代。まさかコロナがここまで続くとは、まさか気候変動がここまでの猛威を振るうとは。そんな現状から、新しく生まれる季語も出てくるかもしれないぞ、と思う。ここ数年の夏の暑さは半端ではない。天気予報のお兄さんが「明日の最高気温は三十五度」と言っても動じなくなっているし、「○○では四十度を超える命に危険のある暑さ」という予報に対しても、また記録更新かと聞き流す人も多いのではないか。ひょっとすると夏のボーナス、「夏期賞与」という季語が「猛暑生存資金」と呼ばれる日がくるやもしれぬ。これでエアコン買って下さい。電気代の一部に充てて下さい。命に危険のある猛暑を、なんとか生き抜いて下さい。そんな冗談が冗談で終わらない日がくるかもしれないことを、私たちはここ数年の経験から学んでいる。新しく生まれるかもしれない季語を予測することは、時代の方向を見守り、警鐘を鳴らす行為となり得るかもしれない。そんなことを夢想する、現在は2022年の冬である。

元のページ  ../index.html#11

このブックを見る