WAVE89
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・ 滅 ・ 寸 リンテック LINTECエッセーESSAY夏井 いつきYouTubeを始めて二年半が過ぎた。始めた一番の目的は、「定番の質問に対する答えをストックする」ことだ。俳句を始めた人たちは、皆、同じ疑問を持ち、同じ質問をしてくる。それに毎回答えていくのは、結構めんどくさいものなのだ。例えば「着物持ってないんですけど、俳句できますか」「正座ができないけど、句会に行けますか」のような外側から固めてくるタイプの質問もあれば、「俳句って五七五でしたっけ」「季語ってなんですか」のような、そこからですか?!的な質問もある。こういう質問に対する答えをYouTube上にずらりと並べておけば、俳句を始めてみようという人たちにとっても便利だし、こちらとしてもメッチャ楽ちんなのだ。その手の質問の中によくあるのが、「季語って、誰が、どうやって決めるのですか」というヤツだ。季語を選定する委員会があると思い込んでいる人が案外多いこと10に、逆に私たちは驚く。季語とは、誰かが決めるのではなく、自然発生的に生まれ、沢山の人がそれを季語として使い始め、さらに次代の歳時記編者が季語として載せる。つまり長い時間をかけて、ゆっくりと熟成されていくのが季語なのだ。生まれてくる季語もあれば、時代と共に変わっていく季語もある。かつて私は、『・ 絶 ・ 前季語辞典』という本を書いた。絶滅寸前季語保存委員会というものを勝手に立ち上げ、人々に忘れ去られ消えかけている季語に、もう一度光を当てる活動を始めたのだ。その中で見つけた絶滅寸前季語の一つに「越冬資金」があった。豪雪地帯の雪掻き費用か、リストラ対象の給付金か、などと思ったが、なんのことないボーナス、つまり年末賞与をこんなふうに呼んでいた時代があったのだ。時代を映す鏡「季語」

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