WAVE87
13/24

杉本 昌隆 (すぎもと まさたか)棋士。1968年生まれ、愛知県出身。1980年、6級で故 板谷進九段門下。1990年10月、プロ入り。2001年5月、第20回朝日オープン将棋選手権準優勝。2008年、NHK将棋講座の講師を務める。2019年2月、八段昇段。本格派振り飛車党で、特に戦術書の著作は15冊以上。地元東海研修会では幹事を務めるほか、杉本昌隆将棋研究会を主宰し、後進の育成にも力を注ぐ。藤井聡太竜王の師匠として知られる。AIを活用しつつも、それに頼りすぎず自分で考えて先を読むこと。そして若いお弟子さんたちの思い切りの良い手を見習って共に学ぶ姿勢を大切にしている杉本さん。リンテックも“ベテラン”の経験・知見と若手の斬新な発想を融合し、時代の変化を的確に“先読み”しながら、一丸となって持続的成長を目指していきます。提供:日本将棋連盟13ノーマークでした」「AIの評価はマイナスと知っていたけど実際は互角じゃないのかな」、修業中の弟子とこんな会話もする。ベテランだからこそ、AIは使うべき。その上で違う手の奥深さを示して勝つ。これが私の思い描く理想だ。もっともマイナスの状態からそのまま負かされることもあり、そんなときはちょっと格好がつかない。指導者も日々勉強である。弟子は会社で言えば部下のような存在。子どもへの指導を頼むこともある。だが、修業中の弟子には時間的猶予がない。棋士になるまでの年齢制限(原則21歳で初段、26歳で四段にならないと退会)があるからだ。なので私はこう言って頭を下げる。「君の貴重な勉強時間を削って申し訳ないけど手伝ってくれないか」立場を自覚させる意味もあるが、中学生の弟子などはキョトンとしている。弟子たちが年齢制限の恐怖に打ち勝つことを願ってやまない。藤井竜王が中学生の頃に、私の将棋教室で子どもへの指導を頼んだことがある。歳が近いお兄ちゃんと言った雰囲気で、なかなかの指導ぶりだった。「この手が好手で困りました」ときに敬語を交える感想戦。この指導を受けた小学生の少年は今、私の門下になり棋士を目指している。彼がいつの日か棋士になったとき、兄弟子・藤井竜王の教えを後輩たちに引き継ぐことだろう。コロナ禍、ロシアのウクライナ侵攻、止まらぬ円安と、気になるニュースが毎日続く。だが結局、私たちは自分のやれることをするしかない。藤井竜王を始め若い弟子たちの選ぶ指し手は常に前向きであり、失敗しても引きずることはない。彼らを見ていると師匠の私が勇気づけられるのだ。先読みは大事だが、読みすぎると選ぶ指し手が委縮してしまう。ときには若い人たちと一緒にがむしゃらに打ち込みたい。そして弟子たちとは一緒に学び、将棋界を、いや日本を生き抜く同志でありたい。

元のページ  ../index.html#13

このブックを見る