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リンテック LINTECエッセーESSAY杉本 昌隆将棋と投資は似ていると聞いたことがある。確かに、先読みや直感、時間との勝負、攻防(売り買い)のタイミングなど共通する言葉がたくさんある。昔の将棋界はおおらかで、対局の午前中に株の話をしているベテラン棋士の先生は何人もいた。株式市場を気にされていたのだろうか。控室でテレビやラジオなどをつけている先生もおられた。当時の将棋は戦いが始まるまでが長く、ほぼ午後以降だったから可能だったのだろう。色々な意味で今は決して見られないが、古き良き昭和の時代であった。長年続けてきた将棋だが、業界の先を読むのは難しい。今から5年前、棋士デビュー直後の中学2年生の少年が公式戦負けなしで29連勝を達成し、19歳でタイトルを五つ保持するなんて誰が予想しただろう…と書いたものの、これは建前。彼が小学3〜4年生の頃には、私は未来のその日を確信していた。それぐらい藤井聡太12の才能は、ずば抜けていた。その意味では読み筋通りである。むしろ読めなかったのは、「藤井の師匠」と呼ばれるようになった自分自身のこと。人生って、本当に不思議である。今の将棋界は、研究でAI(将棋ソフト)を使うのが当たり前。全ての変化を網羅して評価値で示してくれるAIは実に便利である。AI研究により、未知の恐怖も軽減した。事前にリスクの程度を知り、不利になるパターンもある程度想定できるからだ。画期的と感心する反面、一種の危うさも感じる。若い弟子に多いのだが、マイナス評価を知った瞬間にその先を読むことを止めてしまうからだ。なぜマイナスなのか自分の頭で考えてほしい。汗をかいて人対人の勝負をしてほしい。彼らから見ると古い考え方だろうが、それを伝えるのも師匠の役目だ。「この形はAIで結論が出ていたので若い世代と共に学ぶ

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