WAVE81
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私は14歳。「人生にとって最も大事なことは、良い師と巡り会うこと」。私にとって この言葉は大きな、大きな意味を持つ。長く歌っていると、良い時ばかりでは もちろんない。調子を崩し、不安に駆られ、もう歌っていかれないのではないかと、どんどんマイナス方向に心が落ち込んで いくこともある。また、簡単な歌ほど歌い づらくなり、なぜ思うように歌えないの だろう…という時に、駆け込み寺のよう に坂上先生のところに伺う。するとなぜ だろうか、先生の一言二言の助言と、響きのある声のための基本的なレッスンを受 けることで、いつもびっくりするほどすぐ に問題は解決する。先生は85歳になられ、私は72歳になったが、今でも「先生」「良子ちゃん」という師弟関係は変わらずに続いている。コロナ禍でしばらくレッスンを止めていたが、久々のコンサートのため、フェイスシールドをしながらレッスンを受けた。7ヶ月以上のブランクで錆び付く寸前だったが、歌う ための体や喉は回復し、歌う気持ちをしっかりと取り戻す意義のあるレッスンだった。“今、何が大切か”難しく考えていた私に、先生は基本の「基」を授けてくれた。無限の引き出しを持つ先生のレッスンは、私にとっては一回一回が貴重な宝物 を頂く時間でもある。先生は常に歩みを止めることなく、今なお前向きに、また 真摯な気持ちで夢に向かう女学生のように声のことを見つめ、考え、探索し、発見 を繰り返している。そんな先生の側で、 その姿勢を、その背中を追いかけることは、私の人生にとって最高の恩恵と言える。先生から教えて頂いた全て、授かった全てがステージにつながってゆく。長い間、歌い続ける幸せは、一人だったら半分も実現しなかっただろう。そして今、歌を忘れた金糸雀は何とか後の山に棄てられることなく万全の準備を整え、 スタッフやミュージシャンが用意してくれ た“象牙の船に、銀の櫂かい”を月夜の海に浮 かべ、静かに出航の時を待っている。森山 良子(もりやま りょうこ)歌手。1967年に「この広い野原いっぱい」でデビュー。その後、ミリオンセラー「禁じられた恋」をはじめ「涙そうそう」「さとうきび畑」など、数々のヒット曲を生み出す。2002年、第44回日本レコード大賞において最優秀歌唱賞、金賞(さとうきび畑)、作詩賞(涙そうそう)を受賞し3冠を達成。2008年、「紫綬褒章」を受章。2013年に「Ryoko Classics」、2018年に「Ryoko Classics II」とクラシックアルバムをリリースし、近年はオーケストラとのシンフォニックコンサートも大好評を博している。長く歌い続けるためには、常に基本を大切にすること。そして歌い続ける幸せは、恩師や仲間などの 周りのサポートがあってこそ、より大きなものになると森山さん。リンテックも常に社是「至誠と創造」の原点に立ち返り、さまざまなステークホルダーの皆様と共に持続的成長を目指していきます。11

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