WAVE79
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で挑んで挑み続けてきた。もちろん、それでも成果を得られないことはある。そんな時、私は5つ目のこだわりというか、新たな教訓を得た。ロサンゼルス五輪が終わったあとの16年間、私はすっかり長いトンネルに入ってしまった。いくら努力しても改善が見られないどころか、むしろ成績は悪化していく。何度も諦めかかったが、あと一日頑張れば…と、自分を励まして模索の日々を送った。ケガと戦い、道具を工夫し、体を鍛え直し、さらに練習を積み増し、あらゆる努力の積み重ねが重い扉を開けてくれたのは、2000年シドニー五輪が終わった秋。不思議なほど成績が一変した。そこに至る16年間が、「楽しくない時は忍耐力が養われる」という、こだわりその5を教えてくれた。2004年アテネ五輪で厳しい戦いを勝ち抜いて銀メダルを獲得することができたのは、ひとえにあの16年間のおかげである。悶々と苦しんで過ごした日々の中で、強い忍耐力が養われていたのだ。人生は楽しいばかりでは強くなれないと思い知った。スポーツの落とし穴に、勝利至上主義がある。本来、スポーツは競技者自身を豊かにし、見ている人に幸せを届けるべきものである。ところが勝利だけを自己目的化すると、非人間的なしごきや意図的な反則、時にはドーピングなどを招くことになる。だから最後のこだわりは、「本来の目的を忘れるな。当面の目標はそのためにある」ということになる。振り返れば45年の競技人生はあっという間であり、教師としての35年間も瞬くうちに過ぎたような気がする。教師として最も大切なことは、自分が誰よりも授業が大好きで楽しいと感じることだ。学生たちが時計の針さえ忘れるほど夢中になってくれる授業こそ、私の理想とするものだ。そのための創意工夫をするときは、私自身も時を忘れることがある。これからもアスリートとして教師として、もっと楽しい時間を創出することを目指して私は前に進んでいくだけだ。それが私にとっての人生であり、かけがえのない幸せと感じているからだ。東京五輪・パラリンピックは開催延期となってしまいましたが、人々に幸せを届けるスポーツの魅力は変わりません。競技や授業を通じて周りの人を楽しませたいという山本さんと同じように、リンテックもより魅力的な製品開発を通じて、さらに社会に貢献できるよう努めていきます。山本 博(やまもと ひろし)アーチェリー選手、大学教授 博士(医学)。1962年生まれ、神奈川県出身。五輪5大会に出場し、1984年ロサンゼルス五輪で銅メダル、20年後の2004年アテネ五輪では銀メダルを獲得。現在も現役選手として活躍するとともに、日本体育大学教授として教鞭を執る。東京都体育協会会長、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 顧問会議顧問と多方面で活躍。13

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