WAVE77
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して良かったです。幸い二人の息子たちはオーストラリアが大好きで、今では言葉の苦労もなく学校に通っています。出稼ぎ生活に慣れたとは言え、家族のそばにいられないのはとても寂しいです。時差が1時間しかないので毎朝毎晩テレビ電話で話せるし、メッセージのやり取りもできますが、やっぱりハグしたり、一緒に買い物に出かけたりしたい。そう考えると、人と人をつなぐのは言葉よりも、体温とか、なんとなくそばにいる気配とか、言葉ではないものの方が大きいのでしょうね。いつも夕食後はテレビ電話をつなぎっぱなしにして、息子たちの部屋に端末を置いてもらいます。私は原稿を書いているし、息子たちは映画を見たり勉強をしたりしているので会話はそんなにないのだけど、画面越しにつながっているだけでもお互いなんとなく安心するものです。テレビ電話をしている時は、私はタブレット端末の画面の中に閉じ込められていますから、自力では動けません。食卓で話していたのに、食べ終わった息子たちが私を連れて行くのを忘れて部屋に戻ってしまい、一人テーブルに取り残されたりしたときには「寂しいーー!」と叫んで気づいてもらいます。「ああ、ごめんごめん」と端末を取りに来た息子たちは「ママ、僕たちのどっちの部屋に来たい?」と聞いてくれて、久々に整理整頓したクローゼットの中身や、飼っている魚とかを見せてくれます。天気の良い昼間には庭に連れ出してくれることも。画面越しに息子たちの顔を見上げていると、なんだか自分がうんと歳をとって、車椅子であちこちに連れて行ってもらっているような気持ちになります。おばあちゃんになるまで生きられるかはわからないけど、いつかすっかり中年になった息子たちと「あの頃はまだホログラム*じゃなくて、テレビ電話だったよね!」などと思い出話ができたら嬉しいです。小島 慶子1972年生まれ。1995年にアナウンサーとしてTBSへ入社。1999年に「第36回ギャラクシー賞」のラジオ部門DJパーソナリティー賞を受賞。2010年に独立して以降は、テレビやラジオなど各種メディアへの出演、執筆、講演活動を行う。自身の経験を生かし、東京大学大学院情報学環客員研究員(メディア表現と多様性)、「オーストラリアnow」親善大使、NPO法人キッズドア アドバイザーとしても活動するなど、多岐にわたる分野で活躍中。タブレット端末の画面越しに、遠く離れたお子さんたちと一緒の時間を楽しみ、その未来の姿にも思いをはせる小島さん。タブレットと同じように、未来の通信・映像機器にもリンテックのさまざまな 技術が生かされているかもしれませんね。* ホログラム:レーザー光線などを利用して映像を立体的に映しだせるため、通話相手をより身近に感じることができる近未来の映像表現 11

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