WAVE75
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かける「勇気」です。表現方法は作り手によるでしょうが、当時僕の作った歌は「精霊流し」「無縁坂」「雨やどり」「秋桜」「案山子」「関白宣言」「親父の一番長い日」など、ことごとく家族の歌でした。『このままだと日本の家族は壊れないですか?』、ひいては『日本の良さや人情が変質しますよ』、そして『本当に今の流れで良いのですか?』という疑問を歌ったつもりでしたが、僕の歌は「古い価値観を呼び戻そうとする間違った、危険な考えだ」と強い批判にさらされました。それで僕の歌の真意が届く迄に数十年掛かりました。歌のテーマは勿論こればかりではありません。「アメリカへの疑問」「拝金主義」「報われない小さな善意」「交通加害者の苦悩」といった難しいテーマも歌ってきました。今でも『メッセージ』こそが歌の真価であると信じています。だが気づけば、「音楽の質」が急激に変化しました。歌においてそれは顕著です。メッセージ性やオリジナル性が失われ、コピーを恥とせず、主張は消え、聴くものから観るものに変わり、人の奏でる音色をデジタルデータが代行します。そこには『複製技術時代の芸術』でヴァルター・ベンヤミンが予見したとおり『アウラ』、すなわちオーラは存在しません。体温も不在です。憂うべき時代ではありますが、僕は諦めない。音楽家の魂が今こそ最も発揮される時代だと思うからです。音楽には「ライブ」という聖域があります。「ライブ」にはコピーも複製も存在せず、ただストレートに「オリジナルが持つ質」のみが問われます。ある意味では最も怖ろしい現場です。だからこそ、ここで生きようと思うのです。音楽家として生き残ることはとても大切ですが、もっと大切なことは人として、この国に生まれ生きる人間としての「体温」を訴え続けられる「音楽の居場所」を護ることでしょう。生命ある限り、「正しい」と思うことを、小さな声でも良いから歌い続けるつもりです。さだ まさしシンガーソングライター、小説家。長崎県長崎市出身。1973年にフォークデュオ「グレープ」としてデビューし、1976年ソロ・シンガーとして活動を開始。通算4,300回を超えるコンサートを行う傍ら、小説家としても活躍。書き下ろし小説の多くがドラマや映画化され、幅広い世代に愛されている。また、2015年8月、風に立つライオン基金を設立(2017年7月、公益法人として認定)。さまざまな助成事業や被災地支援事業を行っている。オリジナル性や音楽家の「体温」が感じられるライブを通じて、歌の真価であるメッセージを伝えていくことを大切にしている さださん。リンテックも独自の技術開発を通じて、お客様にとって真に価値のある製品の提供に努めています。13

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