WAVE75
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最近とても気になることがあります。一つは老人の孤独死、二つ目は高齢運転者による悲惨な交通事故、三つ目は若い親が幼い子供を虐待死させる事件の数々。もう一つがオレオレ詐欺や振り込め詐欺と呼ばれる悪辣卑劣な犯罪です。いずれも『昭和』の頃には頻繁に現れるものではありませんでした。 これらの事故・事件・犯罪はそれぞれ別々の視点で語られるけれども、僕にはその根は全て繋がっているように見えます。それは「家族構成の変化」です。昭和の中頃までは家の中に祖父・祖母・父・母・子供という《3世代同居》の時代がありました。わざわざ高齢者が自分で運転しなくても良かった時代です。また家の中に自然に「老人の眼」があったので、若い夫婦が無残に子供を虐待する前に祖父母が止める事も出来得たのです。更に同居は一家が互いの情報を把握できるため、オレオレ詐欺などは通用しませんでした。年金だけでは生きて行けないという社会制度も大きな問題ではありますが、家族構成の変化の影響が大きいと僕は考えています。きっかけは1970年代、若者達が社会の変革を求める中で、ニューファミリーや核家族、つまり「親と同居せず」という新しい生活ルールが生まれました。若い夫婦達は親に監視されて影響を受け続ける古い家庭から開放され、自分達だけに都合の良い生活空間を作りました。ただ、当時から僕はこの新しい家族のスタイルに不審を抱いていました。「親と同居せず」のルールなら「子供とも同居せず」です。そして夫婦は二人きりになり、片方が死ねば当然独居になり、やがて独りで死ぬ。当然の帰結です。だが当時僕は、この新しいルールを作った人達はその行く末を「覚悟している」のではなく、「気づいていない」か、或いは「考えたくない」のではないかという疑念を持っていました。そんな時代に僕はうたづくりを始めたのです。うたづくりの仕事で一番大切なことは、「変だ」と思うことを「変じゃない?」と問いうたづくりの仕事ESSAYエッセーリンテック LINTEC さだ まさし12

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