デジタル機器をさらに進化させる独自の“テープ”技術。

デジタル機器をさらに進化させる独自の“テープ”技術。

PROFILE

坂本 美紗季(さかもと みさき)
北海道大学大学院 総合化学院卒。2012年、リンテックに入社。電子材料研究室に所属し、ウェハ表面保護テープやダイシングテープなど、複数の半導体関連テープを担当。現在は、非常に高い世界シェアを誇るフリップチップ向けの裏面保護テープの開発に従事。さまざまな製品開発で培った経験を生かして活躍する、半導体関連テープのエキスパート。

スマートフォンの高機能化や通信の高速化・大容量化、あらゆるモノがインターネットにつながる「IoT(Internet of Things)」の普及を受け、拡大を続ける半導体関連市場。その中で重要な役割を担っているのが、リンテックのフリップチップ実装デバイス向け裏面保護テープだ。半導体パッケージの小型化・薄型化を実現するこのテープには、どんな技術が詰まっているのか。開発に携わる研究員の坂本美紗季に尋ねた。

Chapter 01

高い世界シェアを誇る高機能テープ

最終製品に残る直接材料だからやりがいも責任も大きい。
独自の発想に基づくオンリーワン製品

「IoT」の普及や「AI(人工知能)」の進化に伴い、半導体チップのニーズは拡大している。そうした中、リンテックでは半導体チップの製造に欠かせない、多種多様な半導体関連テープ「Adwill(アドウィル)」を開発・提供している。昨今の半導体業界では、製造工程の簡略化のため半導体チップを実装してから金属ワイヤーで基板と接続するワイヤーボンディングに代わって、バンプと呼ばれる突起電極を回路面に形成し、回路面を下にして直接基板と接続する“フリップチップ実装”の採用が増えている。その際に、半導体チップの裏面(回路や電極が形成された面の反対側)を保護・補強する目的で貼られ、光などによる回路面への悪影響を低減する役割を担うのがフリップチップ裏面保護テープだ。リンテックの半導体関連テープの中でも特に高い世界シェアを誇り、独自の発想に基づくオンリーワン製品といえる。

フリップチップ実装デバイスのパッケージング機能を担う

スマートフォンへの搭載数が拡大しているフリップチップ実装デバイスのパッケージング機能を担っているのが、坂本が開発しているテープである。「従来の半導体チップは、基板に実装する際、ワイヤーを使ってチップ表面の回路と基板を接続して通電させていました。フリップチップでは、バンプを形成したチップを反転して直接基板に実装します。こうすることで、細いワイヤーで一本一本つなぐよりも省スペース化が可能で、配線も最短になるので電気的な特性も向上できるというメリットがあります」。

フリップチップ裏面保護テープの使用工程

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Chapter 02

研究員に必要なのは発見力と考察力

現状に満足せず、テープの可能性を探り続ける。
“剥がされないテープ”に求められること

本来であればウェハを切断し、実装後に樹脂で封止する。しかし、フリップチップの場合、ウェハ切断前にテープを貼ることで、切断後ピックアップした際には、裏面がテープで封止された一つのパッケージになる。つまり、樹脂で封止するという工程を簡略化できるのだ。そして、このテープの最大の特徴は“剥がされない”ことだという。「当社で開発する半導体関連テープの中には、ウェハの裏面を研削したり、ウェハを切断したりした後に剥がしてしまうモノもあるのですが、このテープの場合は剥がされることなく、最終製品の構成部材となります。そういった意味では誇らしくもありますが、同時にとても責任が重いテープですね」。

“剥がされないテープ”には一体どのような性能が求められるのだろうか。「信頼性が一番ですかね。耐熱性や耐湿性といった基準をクリアすることはもちろん、とにかくしっかりと“くっつく”ことが重要です」。技術革新が急速に進む中で、お客様のニーズに応える最適な一枚を生みだすために、坂本はチームの仲間と連携し、研究を続けている。

「発見力」と「考察力」が研究開発のカギ

圧倒的なシェアを誇るフリップチップ裏面保護テープ。現状で安泰のように思えるが、坂本は次のように話す。「いち早くこの開発に成功し、現在のシェアを確保していますが、数年後はどうなっているか分からないので、常に危機感を持ってテープの開発・改良に取り組んでいます。今はIoTの普及でスマートフォンやパソコンだけでなく、家電や自動車などにも半導体が必要になってきています。そういった分野でも対応できる性能がテープにも求められてくると思います」。

現状に満足することなく、未来を見据えて改良を積み重ねる坂本。研究員として重要なことは、問題の原因を見つける「発見力」とそれを改善するための「考察力」だと語る。「検証の際に小さな変化を見逃さないことや、その変化に『何でだろう?』と興味を持つことが、研究員としてとても重要だと思います。もちろん一人だと見逃してしまう部分もあるので、私はチームのみんなに意見を聞くように心掛けています。一人ひとり着目するポイントが違うので、『その視点があったか!』といつも刺激を受けています」。何が問題なのか、その原因を見つけ出さないことには、テープの改良はあり得ない。次なる一枚を生みだすために、日々進化する製造プロセスやデバイスから目を離さず、持ち前の発見力と考察力で開発を続けている。

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Chapter 03

夢は一種類で全てを担えるテープの開発

お客様の声に応えることが一番のやりがい。
さまざまなテープ開発を経て獲得した武器

坂本は現在のテープを担当する前は、ウェハ裏面研削用の表面保護テープや切断工程用のダイシングテープといった、別の半導体関連テープの開発に携わっていた。その経験が多くの場面で坂本を支えている。「開発する際に使う材料は、チームごとに若干違うんです。でも、それをみんな知らなくて、『この物性を見るなら、あのチームが持っている材料を使った方がいいんじゃない?』といったアドバイスをできることもあります」。いつでもオープンで話しやすい雰囲気づくりを心掛ける坂本の元には、チームの垣根を越えて、解析の依頼や相談が集まる。この仲間たちこそが、坂本の最大の武器なのかもしれない。

開発を進めていくに当たり、苦い経験もした坂本。「お客様と直接やり取りし、自信を持って提供できるテープが完成したんです。でも、完成したときには違うデバイスに変わってしまって、使えなくなってしまった…。そのときに身をもって開発スピードの重要性に気づきました。後輩ができたこともあり、今はより一層、タイムマネジメントに気を配っています」。

テープ開発は難しいから面白い

坂本にとっての仕事のやりがいとは何なのだろうか。「お客様の声に応えることが一番のやりがいですね。試作品をお客様のところで評価する際に、立ち会って意見を伺うこともあります。『ここがダメだ』とか『ここはいいね!』など、お客様の声を直接聞きながら製品をつくり上げていくことで、開発への意欲が一層高まります」。

最先端のテープ開発を行う坂本。昨今のIoTやAIの進化について、研究員の目にはどう映っているのだろうか。「半導体関連の製品開発に携わっているのですが、実はアナログ人間なんです(笑)。より便利に豊かになるのは、すばらしいことだと思いますが、そこに頼り過ぎるのはちょっと怖いかなと。便利さを追求すると落とし穴も生まれるので、リスクを伴っていることをきちんと理解して製品開発を行っていきたいです」。

さまざまなテープ開発に携わってきたからこそ芽生えた坂本の夢。それは、一種類で全ての工程に適用できるテープの開発だ。「普段はお客様の要望に合わせて、最適なテープを個々に開発しているので、どうしても汎用性は低くなってしまいます。いつかは、一種類で全ての製造プロセスに対応できる、もしくは数多くの半導体メーカーに使ってもらえる、そんな万能なテープをつくってみたいですね」。研究開発には失敗が付き物。だが坂本は、うまくいかないことがあっても、落ち着いて原因を突き止め、プロジェクトを進展させる。楽しみながら開発に挑む彼女なら、きっと描いた夢をカタチにできるはずだ。

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