冨岡は一時期、研究所を離れて生産現場で開発を担当していたことがある。そこで工場の塗工技術を学んだ。「私たちの開発に大切なのは、研究者視点、ユーザー視点、そして生産現場視点。材料の配合、混ぜ方だけではなく、どういう環境でどう塗るかということまで考えなくてはいけない。化学だけ分かっていてはだめで、物理や機械の分野にも踏み込んでいかなければならないんです」。冨岡はあらゆる角度から表面加工技術を考えている。
冨岡のモットーは、客観的視点を忘れないこと。それを意識することで、ふと我に返ることができるのだそうだ。「研究開発は没頭することが必要です。しかし没頭しすぎると、研究者としての自分の視点だけで考えてしまうことがある。そういうときは、まず一呼吸置いて、誰かに相談することを心掛けています。上司や同僚の意見を聞くことで客観的になれますし、いろいろな立場からもう一度考え直すことができるんです。また、みんなの意見を集約することで開発スピードも上げることができますしね」。
材料設計の段階から、生産現場でのつくりやすさまでを考えて開発するのが楽しいという冨岡。そういった労を惜しまぬ研究姿勢が、リンテックの技術開発の原動力になっている。
冨岡の入社理由にはその人柄が表れている。「テレビやスマートフォンなどを開発するのもいいんですが、縁の下の力持ち的な立場で、それらをより進化させるための独自の技術を開発する。そんな役割もいいんじゃないかと。一つの技術にとことんこだわる。それを真剣に考えることが僕には向いていると思ったんです」。
表舞台には立っていないけれど、すごく重要なところを支えている。そんな冨岡に、リンテックの魅力を聞いてみた。それはシート材料の可能性を切り開くことにあるという。「フィルムがここまで進化する前は、世の中のさまざまな製品においてガラスが主に使用されていました。でも、それだと軽量化していくことが難しい。では、フィルムで代替できないか、というところから進化が始まったんです。さらに、フィルムのようなシート材料であれば柔軟性があって、ロール状にして納品できる。大量生産や搬送にも適している。これはユーザーにもクライアントにもメリットの大きいことだと思います」。
最終製品の薄さ、軽さ、そして性能までも変えていくシート材料。それをさらに進化させ、世の中の役に立つものにするためには、今後もリンテックの表面加工技術が欠かせない。