液晶画面の映り込みを防ぐ!フィルムの“表面加工”技術。

液晶画面の映り込みを防ぐ!フィルムの“表面加工”技術。

PROFILE

冨岡 健太(とみおか けんた)
東京工芸大学大学院 工学研究科 工業化学専攻。2003年、リンテックに入社。入社当初からハードコート加工の研究に携わり、さまざまな仕様での開発に着手。約2年間の工場勤務で生産現場での経験を積み、再び研究所へ。現在はカーナビ用の防眩ハードコートフィルムの開発に従事。素材開発、生産の両方の視点から開発に励む研究所のディスプレイマン。

※なお冨岡は現在、管理部に所属し、研究開発活動全般を支援している。

カーナビや薄型テレビなどの液晶ディスプレイは、さまざまな光学機能性フィルムで構成されている。実はそのフィルム1枚1枚には、多くの技術が集約されている。日差しや蛍光灯の映り込みを防ぎ、傷などもつきにくくする「防眩ハードコート加工」もその一つだ。この加工には研究員のこだわりが詰まっている。光機能材料研究室で開発に当たる冨岡健太に話を聞いた。

Chapter 01

カーナビの液晶ディスプレイをもっと見やすく

映り込みを防ぐのは、表面加工の仕事。
表面加工のプロフェッショナル

冨岡の1日。それはメールチェックから始まる。クライアントや営業担当者から寄せられる質問や依頼に素早く応えるためだ。彼が開発を担当している光学機能性フィルムは、カーナビや薄型テレビなどの構成部材だが、これら最終製品のモデルチェンジは非常に早い。それに対応していく中で身に着いた冨岡流のワークスタイルだ。「スピードは研究員が応えなければならないニーズの一つ」。冨岡はそう言い切る。

そんな彼はフィルムの表面加工のプロフェッショナル。入社以来ずっと、フィルムの表面に傷をつきにくくするハードコート加工の研究に取り組んできた。今、彼が担当しているのがカーナビの液晶ディスプレイの構成部材となる「防眩ハードコートフィルム」。“防眩”とはまぶしさを防ぐことをいい、このフィルムは日差しや蛍光灯などの映り込みを緩和し、同時に傷などもつきにくくする役割を担っている。冨岡はフィルムの防眩性を確保しながら、画像を鮮明に表示するために必要な高い透明性の実現に取り組んでいる。

カーナビの最表面には秘密がある

なぜ防眩性が必要なのか。昼間や夕方の運転中は、フロントガラスやサイドガラスから日差しが差し込んだり、周囲の建物や助手席シートから間接光が反射したりして、カーナビの液晶ディスプレイが見えにくくなることがある。それを緩和することは安全に運転するために欠かせない機能なのだ。では、どうやって映り込みを緩和するのか。冨岡が行っているのは、フィルムの表面に微細な凹凸を形成することで光を拡散させ、反射像をぼかすことで映り込みを防ぐ加工だ。肉眼で見ることは難しいが、カーナビの液晶ディスプレイの表面には微細な凹凸があるのだ。

「表面の凹凸が大きく粗くなればなるほど、光を拡散できるんです。そうすると映り込み防止の機能はすごく高くなるんですけど、逆に画面自体が見えづらくなってしまう。それをなくすために、材料設計の段階から凹凸の大きさ、配置を調整しなければなりません。カーナビ用の液晶ディスプレイが登場した当初は、画面自体の解像度が非常に粗かったのですが、液晶ディスプレイが進化し、鮮明な画像表示が可能になるにつれて、さらに精度の高いコントロールが求められるようになりました。せっかくきれいに見えるようになったのに、最表面に使われるフィルムがその視認性をじゃましては意味がないですからね」。

クリアハードコート加工と防眩ハードコート加工の比較図

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Chapter 02

高透明かつ映り込みも防ぐ、究極のフィルムを目指して

材料開発から混ぜ方、塗工技術までとことんこだわる。
微粒子は味方であり敵

フィルムの表面に凹凸を形成するために、「フィラー」と呼ばれる微粒子をハードコート剤に配合して塗る。フィラーは、性能のコントロールが非常に難しい。特に小さいフィラーを使うと、粒子同士がくっついて、大きな粒子の塊になる。それが原因となり、製品の欠陥となってしまうことがある。「その状況を説明すると、ベビーパウダーみたいなものを想像してもらうと分かりやすいです。ああいうものは、一粒一粒がとても小さいのですが、くっついて固まったりしますよね。フィルム上に欠陥ができるイメージはそういう状況です」。

冨岡は、一粒一粒の微粒子に対して材料開発から塗工技術まで複合的な視点でアプローチしていく。カーナビ用のフィルムの場合は車載されるため、薄型テレビなどと比べて特に高い耐久性が求められる。温度、湿度、紫外線といったものに材料の物性は左右されて、劣化が早くなったり、フィルムが変色したりすることがある。そのため、材料開発には一層こだわるのだ。

混ぜ方一つで物性は変わる

次に混ぜ方。これは製品化において非常に重要な要素の一つだ。異なる性質を持つ物質同士を「混ぜる」ことで新たな物性を導きだすことは想像できるが、「混ぜ方」でその物性をコントロールできるということは、なかなか想像がつかないであろう。「防眩性を付与するためには、樹脂の中にフィラーを混ぜ込む必要があります。混ぜるといっても単純に棒でかき混ぜるような方法だけではありません。例えば、小さい球体を材料に当てて、その衝撃で分散させる方法や、圧力、超音波などを加える方法まであります。混ぜ方を変えると、材料の安定性の確保が難しくなるため、繰り返し試験を行い、十分な品質が確保できるように検証しています」。

高精細化が進むカーナビ用防眩ハードコートフィルム。画像品質を損ねることのないように、冨岡は材料開発から混ぜ方、塗工技術までとことんこだわる。時には最新のテレビを分解して、これからどんな性能が求められるのかを検証している。全ては高透明で映り込みも防ぐ“究極のフィルム”を生みだすため。そのこだわりが、開発の扉を開く鍵になる。

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Chapter 03

1枚のシートに、希望を乗せて

縁の下の力持ちとして最終製品の進化を支える。
あらゆる角度から表面加工技術を考える

冨岡は一時期、研究所を離れて生産現場で開発を担当していたことがある。そこで工場の塗工技術を学んだ。「私たちの開発に大切なのは、研究者視点、ユーザー視点、そして生産現場視点。材料の配合、混ぜ方だけではなく、どういう環境でどう塗るかということまで考えなくてはいけない。化学だけ分かっていてはだめで、物理や機械の分野にも踏み込んでいかなければならないんです」。冨岡はあらゆる角度から表面加工技術を考えている。

冨岡のモットーは、客観的視点を忘れないこと。それを意識することで、ふと我に返ることができるのだそうだ。「研究開発は没頭することが必要です。しかし没頭しすぎると、研究者としての自分の視点だけで考えてしまうことがある。そういうときは、まず一呼吸置いて、誰かに相談することを心掛けています。上司や同僚の意見を聞くことで客観的になれますし、いろいろな立場からもう一度考え直すことができるんです。また、みんなの意見を集約することで開発スピードも上げることができますしね」。

材料設計の段階から、生産現場でのつくりやすさまでを考えて開発するのが楽しいという冨岡。そういった労を惜しまぬ研究姿勢が、リンテックの技術開発の原動力になっている。

シート技術の力を信じる

冨岡の入社理由にはその人柄が表れている。「テレビやスマートフォンなどを開発するのもいいんですが、縁の下の力持ち的な立場で、それらをより進化させるための独自の技術を開発する。そんな役割もいいんじゃないかと。一つの技術にとことんこだわる。それを真剣に考えることが僕には向いていると思ったんです」。

表舞台には立っていないけれど、すごく重要なところを支えている。そんな冨岡に、リンテックの魅力を聞いてみた。それはシート材料の可能性を切り開くことにあるという。「フィルムがここまで進化する前は、世の中のさまざまな製品においてガラスが主に使用されていました。でも、それだと軽量化していくことが難しい。では、フィルムで代替できないか、というところから進化が始まったんです。さらに、フィルムのようなシート材料であれば柔軟性があって、ロール状にして納品できる。大量生産や搬送にも適している。これはユーザーにもクライアントにもメリットの大きいことだと思います」。

最終製品の薄さ、軽さ、そして性能までも変えていくシート材料。それをさらに進化させ、世の中の役に立つものにするためには、今後もリンテックの表面加工技術が欠かせない。

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