森田の日々の業務風景は活発だ。夏でも動き回って汗をかきながら研究に励んでいるという。「研究って、白衣を着て静かに黙々とやるイメージだったんですけど、実際はこのとおり作業着を着て“チャカチャカ”動く感じです。大体は実験室とオフィスを頻繁に行ったり来たりしながら仕事をしています」。そんな森田が現在向き合っているテーマ。それが、テープを剥がしたときに、回路面に余分な粘着剤が残ってしまう“のり残り”をなくすことだ。
BG用表面保護テープは、水を掛けながらウェハ裏面を研磨するバックグラインド工程で、表側の回路面に貼られるテープである。そのため水の混入から回路面を守るよう、複雑な回路面を密閉して貼られなくてはならない。さらにその役割を終えたあとは、きれいに剥がれなくてはならない。「回路面には凹凸があるので、粘着剤を軟らかくして密着性を高めなければならないんですが、そうすると剥がしにくく、不具合の原因となる“のり残り”が起きてしまいます。課題は同時に成立させることが難しい、トレードオフの関係なんです。テープは半導体製造工程を支える存在である以上、回路に悪さをしては絶対にいけないんですよ」。
森田はさまざまな課題を解決するために、二つのアプローチで研究に取り組む。一つ目は粘着剤を構成する高分子の組成を考え、仮説を立てること。二つ目は実際に粘着剤をつくり、それを塗ってみて、その物性の評価を繰り返すこと。「粘着剤の硬さや軟らかさをコントロールして、理想の形に近づけるには、知見が物を言います。仮説の精度を上げるためにも、実際にたくさんの粘着剤をつくり、検証することはとても大切なことです」。
大切なのは知見。だからこそ森田は、上司のアドバイスや、テープを貼付・剥離する装置の設計者からのアドバイスにも耳を傾けることが多いと言う。「私よりずっと経験のある上司や、違う視点を持った装置設計者の方の一言は、私の悩みを解決する特効薬です。そのアドバイスを基に、また自問自答を繰り返して、ようやく答えにたどり着けるんです」。
森田は今後、BG 用表面保護テープをどのように進化させたいのだろうか。「ウェハの違いによってテープを変えなくてはいけないのが現状なのですが、どのウェハでもマルチに使えるようなテープができれば最高ですね。回路面に貼られるときには軟らかく、剥がすときには硬くなり剥がしやすい。物性を自由自在に操れるテープ。そういう粘着剤がつくれたらいいですね」。そのためには、粘着剤を構成する高分子を知り尽くさなくてはならない。森田の積み重ねは今日も続いている。