ICチップ製造プロセスを“テープ”で支える。

ICチップ製造プロセスを“テープ”で支える。

PROFILE

森田 由希(もりた ゆき)
広島大学大学院 理学研究科卒。2009年、リンテック入社。電子・光材料研究室(現電子材料研究室)に所属し、入社2年目からオリジナルテーマでの開発を開始。持ち前の行動力と笑顔を武器に複数のテーマを掛け持ちしながら開発を進めている。夢は海外で仕事をすることと語る研究所のグローバルウーマン。

パソコンやスマートフォンなどをはじめ、あらゆるデジタル機器のいわば頭脳とも言えるICチップ。その製造工程においては、実は高度な粘着テープ技術が極めて重要な役割を担っている。1986年の開発以来、今もなお進化を続けるリンテックの半導体関連テープ「Adwill(アドウィル)」。最先端技術が集約されたこのテープには、どんな秘密があるのか。研究員の森田由希に尋ねた。

Chapter 01

ICチップの小型化を実現するテープを開発

テープは、半導体製造プロセスになくてはならない存在。
パソコンなどの高機能化の陰にテープあり

ICチップは、幾つもの回路パターンが形成された円盤状の半導体ウェハを、さらに薄くするために裏面研削し、その後一つ一つのチップに切断して実装・積層していくことで、最終製品として完成する。そして、その各工程において欠かすことができないのが、リンテックの半導体関連テープ「Adwill」である。パソコンやスマートフォンなどの薄型化、高機能化を実現するためには、中核部品であるICチップの小型化、高密度化が求められてくる。実はそこに、粘着テープの技術が大きく貢献している。

リンテックの特殊粘着テープは、半導体製造工程においてさまざまな場面で使用されている。その中でもウェハ裏面研削(バックグラインド:BG)用表面保護テープは、ウェハ表面への回路形成が完了した後に使用される。このテープはウェハをさらに薄くするために裏面研削する際、表面の回路面に直接貼られ、回路面を損傷や割れ、研削水・研削屑の浸入による汚染などから保護する役割を持つ。

ウェハを薄く削る際に使うテープ

入社当初は、粘着テープが半導体製造工程の中で、どこに使われているのかさえ知らなかったという森田。開発に携わる今では、テープはなくてはならないものだと実感しているという。「半導体ウェハは、最初の段階では大体750ミクロンの厚さです。そんなに薄いのに、ICチップ化するにはまだまだ厚い。だから、裏面を削る必要が出てきます。その複雑な回路面に直接貼るものなので、開発は簡単にはいきません」。

研究開発は、複数のテーマを同時に進めなければならないこともあるという。その理由は、ICチップの種類によって、回路面の形状がまったく異なるためだ。クライアントである半導体メーカーごとに、1枚1枚最適なテープを開発することが求められる。森田は、日々幾多の課題と向き合い、その先の進化を目指していく。

BG用表面保護テープ使用プロセス

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Chapter 02

知るだけではなく、知り尽くすことが大事

全てのウェハに貼れるテープがあれば半導体の製造プロセスを変えられる。
課題は半導体に悪さをしないこと

森田の日々の業務風景は活発だ。夏でも動き回って汗をかきながら研究に励んでいるという。「研究って、白衣を着て静かに黙々とやるイメージだったんですけど、実際はこのとおり作業着を着て“チャカチャカ”動く感じです。大体は実験室とオフィスを頻繁に行ったり来たりしながら仕事をしています」。そんな森田が現在向き合っているテーマ。それが、テープを剥がしたときに、回路面に余分な粘着剤が残ってしまう“のり残り”をなくすことだ。

BG用表面保護テープは、水を掛けながらウェハ裏面を研磨するバックグラインド工程で、表側の回路面に貼られるテープである。そのため水の混入から回路面を守るよう、複雑な回路面を密閉して貼られなくてはならない。さらにその役割を終えたあとは、きれいに剥がれなくてはならない。「回路面には凹凸があるので、粘着剤を軟らかくして密着性を高めなければならないんですが、そうすると剥がしにくく、不具合の原因となる“のり残り”が起きてしまいます。課題は同時に成立させることが難しい、トレードオフの関係なんです。テープは半導体製造工程を支える存在である以上、回路に悪さをしては絶対にいけないんですよ」。

全てをかなえる1枚を

森田はさまざまな課題を解決するために、二つのアプローチで研究に取り組む。一つ目は粘着剤を構成する高分子の組成を考え、仮説を立てること。二つ目は実際に粘着剤をつくり、それを塗ってみて、その物性の評価を繰り返すこと。「粘着剤の硬さや軟らかさをコントロールして、理想の形に近づけるには、知見が物を言います。仮説の精度を上げるためにも、実際にたくさんの粘着剤をつくり、検証することはとても大切なことです」。

大切なのは知見。だからこそ森田は、上司のアドバイスや、テープを貼付・剥離する装置の設計者からのアドバイスにも耳を傾けることが多いと言う。「私よりずっと経験のある上司や、違う視点を持った装置設計者の方の一言は、私の悩みを解決する特効薬です。そのアドバイスを基に、また自問自答を繰り返して、ようやく答えにたどり着けるんです」。

森田は今後、BG 用表面保護テープをどのように進化させたいのだろうか。「ウェハの違いによってテープを変えなくてはいけないのが現状なのですが、どのウェハでもマルチに使えるようなテープができれば最高ですね。回路面に貼られるときには軟らかく、剥がすときには硬くなり剥がしやすい。物性を自由自在に操れるテープ。そういう粘着剤がつくれたらいいですね」。そのためには、粘着剤を構成する高分子を知り尽くさなくてはならない。森田の積み重ねは今日も続いている。

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Chapter 03

夢は海外。研究員の仕事は楽しい

自分のつくったもので、みんなの暮らしを豊かにしたい。
いろんな分野に関われる仕事

「学生の頃は、何の役に立つか分からない。でも、いつか何かの役に立つんだろうなという気持ちで研究していたんですけど、今は目の前にお客様がいるので、誰の役に立てているのかがすぐに分かる。自分が人の役に立てていることを実感できることが、この仕事のやりがいです。お客様に『いいじゃない』とか『ぜひ使わせてください』と言われるとうれしいですね!」と仕事のやりがいを語る森田。そんな彼女は、なぜリンテックに入社したのだろうか。「就職活動のとき、人事の方に、街を10mも歩けば必ずと言っていいほど、リンテックが関わっているものが見つかると言われたんです。それこそ、スマートフォンの中のICチップやコンデンサ、あるいは屋外看板、建物の窓ガラスに貼ってあるウインドーフィルムとか。そういうところがスゴイと思いました」。広く人の役に立ちたいと考えている森田らしい入社動機だ。

女性研究員が多く活躍しているリンテックの研究所。その中で働く森田に、女性研究員の強みを聞くと、こういう答えが返ってきた。「研究の仕事をする女の人って、人一倍頑張る気持ちが強いというか、負けず嫌いな人が多いと思います。周りもそう理解していて、例えば入社当時は重い物を運ぶとき『大丈夫?』とか聞かれていたのに、今は『大丈夫だろっ』みたいな感じです(笑)。今欲しいものは、体力ですね」。

夢は海外で研究すること

森田は仕事をするうえで、大切にしている思いがある。それは「自分のつくった物を世の中に還元して、みんなの暮らしを豊かにする」ということ。小さな頃から実験が大好きで、新しい実験が成功すれば、自分でつくった物が世の中の役に立つのでは、と思ったことが、研究職への道を歩むきっかけだったそうだ。そんな森田の夢。それは、海外で研究員として活躍することだという。「日本だけでなく、いろんな国を見てみたい。中でもヨーロッパは今、半導体技術の最先端を行っている面があるので、ぜひそれを体感してみたいです。私の所属する研究室の中にも、海外勤務を経験した方が多くいるので、それを目標にして頑張っていきたいです」。

最後に、森田の考える“夢をつなぐ技術”について聞いてみた。「今、半導体の製造工程は幾つもの段階があって、テープの要求性能がそれぞれ違います。だから、何種類ものテープが必要なんです。その全てを1枚で賄えるテープができればいいなと。そうすれば、半導体自体の低コスト化を実現できて、いろいろな電子機器の進化に貢献できると思います」。研究員に必要なものは、「体力」と言い切る森田。積極的に開発に取り組むその姿を見ていると、それは「行動力」と言い換えられるのかもしれない。森田の夢の実現に期待したい。

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