ついに完成!ハードディスク思いの“剥離フィルム”。

ついに完成!ハードディスク思いの“剥離フィルム”。

PROFILE

高橋 亮(たかはし りょう)
信州大学大学院工学系研究科卒。2003年、リンテック入社。入社時より剥離材料研究室に所属し、エレクトロニクス分野で使用される剥離材の開発に携わる。緻密な分析力と、誰とでもすぐに仲良くなれるコミュニケーション力を持つ、研究所のパーフェクトマン。
※なお高橋は現在、熊谷工場の加工材製造部で活躍中。

「剥離紙(はくりし)」「剥離フィルム」といっても、一般的には聞き慣れない言葉かもしれない。子供の頃に買ったお菓子の袋に入っていたシール、それを貼る際に剥がして捨ててしまう方の紙、というと分かっていただけるだろうか。この剥離材料の開発には、実はさまざまな先進の技術が生かされている。今回は、シリコーンフリーの特殊剥離フィルム開発チームを代表して、剥離材料研究室の高橋亮に話を聞いた。

Chapter 01

エレクトロニクス分野に最適な「剥離フィルム」を目指す

目的は、エレクトロニクス分野でのトラブルを解決すること。
従来の剥離材が引き起こすトラブルを解決する

一般的にシールやラベルの剥離紙・剥離フィルムには、シリコーンと呼ばれるものがコーティングされている。シリコーンは生活に密着している材料で、防水加工などにも使われているもの。剥離材料研究室に籍を置く高橋のミッションは、このシリコーンに代わる材料を使った剥離材を開発することだった。その目的は、主にパソコンをはじめとするエレクトロニクス分野でのトラブルを解決することにある。

シリコーンを使った剥離材が、なぜパソコンのトラブルを引き起こすと懸念されているのか。それは、パソコン内部に使われるハードディスクにラベルを貼る際、ラベルの粘着剤面にごく微量のシリコーンが転移し、残ってしまうため。その結果、ハードディスク内に、シリコーンの揮発性ガスが発生し、パソコンに不具合を招く恐れがあるからだ。このため高橋は、シリコーンを使用することなく、同等の剥離性能を持った材料を開発するという経過に至った。

選びに選んで見つけた、ふさわしい樹脂材料

シリコーンを使用しない剥離剤は当時、世の中に存在していなかった未開発の製品。それだけに研究の苦労は後を絶たなかった。まず、研究の第一段階として取り組んだのがシリコーンに代わる樹脂材料を探索すること。求めたのは、程良くくっつき、剥がしやすく、時間がたっても安定した物性を持つもの。そうしたできる限りシリコーンに近い物性の樹脂材料を見つけるべく、高橋は材料メーカーとの打ち合わせを重ねていった。

「シリコーンって剥離コート剤として絶対的なものなんです。そのため、違う材料を使ってシリコーンの物性に近づけていくのは実に大変なことでしたね」。数え切れないほどの材料を構造面まで掘り下げて検証し、高橋はようやく幾つかの望ましい樹脂材料を選定することができた。しかし、その材料を使って試作品を実際につくってみると、剥がれにくく粘着剤にくっついてしまったり、予想外に剥がれやすかったりと、開発が次の段階へ進んでも依然、試行錯誤を重ねる日々が続いた。

極めてデリケートなHD(ハードディスク)内部機構

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Chapter 02

まったく新しい特殊剥離フィルムの誕生

緻密な作業の積み重ねで、ハードディスクのトラブル削減に貢献。
緻密な分析作業の積み重ねで、剥離材の常識を超えていく

剥離材は最表面の構造と、剥離コート剤の硬さ、軟らかさによって、その剥離性に大きな違いが出る。研究室での高橋の主な役割は、剥離材最表面の化学結合状態などの構造分析という、ナノレベルの実に緻密な作業。試作段階ではハンドコートという手塗りでつくったサンプルに、一定の熱を加えて、検証する。剥離材に安定した性能を持たせるためには、その熱による数値変化をいかに均一に保つようにするかが重要だ。

「熱を加えて剥がしやすさが変化したとき、まず何が原因かを考えます。そこでほかの研究員と議論を重ね、再度樹脂材料の構造を変えるところまで戻って、また試作品をつくるといった流れで検証を進めました」。高橋の緻密な材料分析があったからこそ、新製品の開発に至る豊富なデータが蓄積された。そして生まれたのが、シリコーンと同等の剥離物性を持つ有機高分子系剥離フィルム。これは、リンテックの独自技術を生かした、まったく新しい特殊剥離フィルムである。

社会の見えないところで役立っている

シリコーン以外の樹脂材料を使用したエレクトロニクス分野の特殊剥離フィルムとして、これほど独自性の高い製品設計のものは現時点ではリンテック品だけである。もちろん、開発を進めている会社はほかにもあるが、高橋に不安はない。「市場における勝算ですか?あると思います。今のところこの製品は、当社のハードディスク用の粘着剤と組み合わせた粘着素材として提供していますが、剥離フィルム単体としても需要はかなりあると思います。ハードディスクのトラブルはあってはならないことですから」。

この剥離フィルムが広く浸透すれば、パソコンの不具合を減らすことに間違いなく貢献できるだろう。高橋の日夜たゆまぬ努力の成果が、彼の知らないところで、世の中の多くの人をほんの少し幸せな方向へ導いていく。この開発に当たり大きな自信を得た高橋は、早くも次なるステージへと向け、開発を進めている。

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Chapter 03

人と人とのつながりを大切に、剥離材の未来を切り開く

仕事で一番大切にしているのは、人と人とのつながり。
円滑なコミュニケーションが仕事の“質”を高める

もともと大学院時代の研究課題はナノ粒子の研究。今とは違うテーマに取り組んでいた高橋が、粘着素材に興味を持ち始めたのは就職活動中だった。彼はある化学メーカーでインターンシップに参加した際、初めて粘着技術に出会う。そこからその可能性に引かれ、就職活動の最終段階で、これまで学んだナノ粒子の知識を生かせる会社を辞退し、粘着関連の研究ができるリンテックに入社する。その決断をさらに後押ししたのは、リンテックの社風だったという。

「入社前のイメージと変わらず、会社の雰囲気はいつもアットホーム。社員同士の仲も良く、プライベートでも遊んだりします。出張で工場に行ったときには、現場の人と飲みに行き、終電を乗り損ねて、結局その人の家に泊めてもらったこともありました(笑)。そうやって育んだ人間関係で、ずいぶん仕事もやりやすくなってます」。

どんな仕事をやるにしても、一番大切なのは人と人とのつながり。これが高橋のモットー。特に剥離材の研究はいろいろな分野の人と関わる仕事なので、円滑な人間関係は仕事をするうえでとても重要とされる。そのため、誰とでも楽しくコミュニケーションを取ることができるという高橋のキャラクターが、仕事の効率アップや豊かな発想を生み出すのに重要なファクターになっているのかもしれない。

剥離力「自由自在」への挑戦

「剥離技術にどんな可能性があるかは未知数」と高橋は言う。確かに剥離技術は一般ユーザーになじみも薄く、マーケットも確立されているとは言い難い。しかし、それは同時に新分野を確立するチャンスとも言える。「剥離材というのは、クライアントからどういうものが求められているか分かりづらいんです。だから、自分たちから積極的に『こういうことができますよ』と提案していかなくてはいけないと思います」。

「将来的には企業向けの剥離材だけでなく、一般消費者に向けて、剥離技術を生かした製品をつくり出していければ面白いですね」。クライアントや営業スタッフからの難しい注文にも、どう乗り越え、製品というカタチにしていくかにやりがいを感じるという彼らしい発言だ。

これから、どんな夢をつなぎたいですか?という質問に高橋はこう答えた。「剥離力が自由に制御できる剥離材をつくりたい。どんな粘着剤に対しても、きちんとくっついていて、かつきれいに剥がしやすいもの。そうすれば、シールやラベルだけでなく、さまざまな用途で社会に役立てる可能性が広がると思う」。

インタビューの最後、将来の夢について尋ねると高橋は確かなまなざしでこう言った。「剥離技術のエキスパートですね」。その言葉にはモノづくりを究める技術者としての誇りと情熱があった。

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